パンドラ城跡地

妄想・駄文語り

ジャンプ式バトルロイヤルとサムライ8

「サムライ8 八丸伝」と言うコミックがある。

週刊少年ジャンプ連載中の作品で今一番私が注目している作品だ。

 

作品自体が面白いから、と言う訳ではない。

 

むしろ、私の感性からするとあまり面白くない、普通なら読み飛ばす類の作品だ。

面白く無さの詳細に関してはここでは割愛するが、端的に言うならば「設定の解説が無駄に長い」ことと「好感を持ちにくいキャラクターたち」が上げられるだろう。

別作品での類例を挙げれば「ギャグマンガ日和夢のカケラ作品」と言えば人によっては理解しやすいかもしれない。

では、なぜそんな面白くないと感じている作品を注目しているかと言うと、作品そのものではなく、その背景に存在するものが興味深いからだ。

 

このサムライ8、製作は作画と原作で分かれており、作画はアシスタント上がりの新人作家さんらしいのだが、一方で原作はジャンプどころか世界レベルでレジェンドと言って良い巨匠になってしまった人だ。

岸本斉史。ジャンプを読んだことが無くても名前だけは聞いたことがあるだろう、全世界で累計二億部という凄まじい売り上げを叩きだした、忍者ファンタジー作品、「NARUTOーナルトー」の作者だ。

そして、そのビリオンヒットを飛ばした大作家の週刊連載帰還作品として、この「サムライ8-八丸伝ー」は多くの宣伝や告知が為され、文字通り鳴物入りでスタートしてしまった。

しかし、そうして大山が鳴動した末にまろび出たのは世界を席巻するNARUTOクラスの龍ではなく、ギャグマンガに出てくるような誇張されたよろしく無さを現実に有する失笑を被る蛇だった。

 

この「蛇」という評は単に私が面白く感じないと言うからではなく、週刊少年ジャンプと言う雑誌のシステムによって、多くの読者の意見として現れている。

有名なので改めて書く必要もないとは思うが、週刊少年ジャンプと言う雑誌は読者から送られる作品評価のアンケートを非常に重要視していると言われており、読者の支持を得る作品は巻頭へ、逆に人気の無い作品は巻末へと掲載順がスライドしていく。

公式のアナウンスがあるわけではなく、特別枠に指定される作品(こち亀やページ数の少ないギャグ漫画)や、入稿遅れなどによる順番の変動もあるが、二か月前後巻末近辺(おおよそドベ3~5)を定位置にする作品が番組改編期、打ち切られていく辺り、掲載順と人気順は連動していると考えて良い。

さて、では「サムライ8」であるが最初のほうこそ雑誌の真ん中あたりに載っていたが、ここ2ヶ月は最後から3~5あたりをウロウロしている。上述した特別枠や入稿遅れでない限り、現在のジャンプ購読者からあまり指示されていないと見て良いだろう。

このままの掲載順が続けば今までのジャンプ新連載作品の例から考えれば次の番組改編がある今年の11月……は他に打ち切られる候補があるからないとして、恐らく早ければ来年の2月には打ち切られる筈だ。

しかし、これはあくまでも「普通に考えれば」の話だ。

果たして2億部を売り上げた作家の満を持した週刊連載に、その「普通」が適応されるのか? この疑問こそが今、私がサムライ8と言う漫画として面白くも無い作品に注目している最大の理由なのだ。

 

全世界で2億部を売り上げた作家の新作ならば、海外代理店からの期待も大きいだろう。最初の告知(18年12月)から連載開始(19年5月)までのタメの長さを考えるとアニメ化をはじめとしたメディアミックスやグッズ化、ゲーム化なども考えられていたかもしれない。だとしたら、途方もない資金が運用されるビッグビジネスが予定されていた筈だ。

無論、これは憶測でしかないが、もしそうなら、このままアンケートシステムに則り打ち切ることはジャンプ編集部単独の判断では難しいかもしれない。

また打ち切りに伴い、岸本氏がバイバイジャンプを敢行しNARUTOというドル箱の権利を集英社から引き揚げる可能性もある。

 

 

これまでジャンプ編集部はどれほど前作で山を当てた作家であろうと、新作のアンケートが芳しくなければ容赦なく打ち切りの刑に処してきた。

北斗の拳原哲夫

キン肉マンゆでたまご

聖闘士星矢車田正美

などは特に代表的な例だろう。何れもジャンプ作品としてだけでなく、メディア展開やグッズ化で社会現象さえ引き起こしたヒット作を生み出しながら、次回作ではあっけない打ち切りにあっている。

このジャンプのアンケートシステムは人気作家の駄作に引導を渡すのみならず、もう少し猶予が与えられれば芽が出そうな作品まで早々に摘み取ることがあるため、少なくないジャンプ作品購読者から批判を受けている。

 

しかし、私はこのシステムがあるからこそ週刊少年ジャンプは、雑誌単位でエキサイティングな面白さを持つと思い、好意的に評価している。

 

作品固定ファン以外の浮動票を得て、少しでも順位を前に進め、作品の猶予時間を延ばすため、アニメ化やゲーム化を果たしジャンプ看板の栄誉を得るため、出し惜しみすることなく注ぎ込まれる発想と労力。勝つためには長年温めてきた構想も、自分のやり方も曲げれる覚悟。

 

作家は各々の得意武器や特殊能力を駆使して闘い、読者は作品が一進一退する様に一喜一憂する。それはさながら、雑誌誌面上で繰り広げられているバトル系の少年漫画のように思える。

努力、友情、勝利。ジャンプが掲げる三本柱はここにあるのだ。

 

そして、このアンケートによる人気レースこそ週刊少年ジャンプの肝だと思うからこそ、人気は無いが打ち切るのも難しそうなサムライ8に強い関心を持つ。

 

例え2億部売ろうが前作は前作として、数多の前例と同じ様に打ち切られ、描いた青写真を皮算用に変えてしまうのか

 

ジャンプシステムの異物として作品欄に居座り他の打ち切り作品を増やし、そのファンの怒りと舌打ちを買い続けるのか

 

或いは前作で全国的大成功を修めながら次回作序盤では伸び悩み、しかし有能編集のテコ入れで今度は世界規模の大ヒットを成し遂げた鳥山明をなぞれるのか

 

何れにせよこの作品の行く末に注目しておけば、週刊少年ジャンプをより一層楽しめるだろうと確信する。

……もっとも、漫画作品として注視するのはなかなか苦行ではあるのだが。